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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)240号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告の主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、第二引用例及び第三引用例記載の技術内容並びに本願発明と第一引用例記載の技術事項との一致点の認定を誤り、かつ、本願発明と第一引用例ないし第三引用例記載の技術事項との対比において両者の構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願発明をもつて第一引用例ないし第三引用例記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。

前記本願発明の要旨並びに成立に争いのない甲第二号証の一(本願発明の公開特許公報)及び四(昭和五二年六月一〇日付手続補正書)によれば、本願発明は、かに肉又はかに脚肉と同等のゼリー強度を有する魚肉練成品のかまぼこを薄板状に成型し、小口より特定の刻み幅をもつて繊切りすることによつて、かに肉と同等の食味感のある食品を製造する方法に関するものであるところ、かに肉の筋繊維組織の構造、すなわち、筋節の強度、断面形状及び太さ等を詳細に研究調査し、これと同等の条件を満足させるように、魚肉練成品を繊切りすることによつてかに肉繊維に近似する口触りをもつたものを得ることを目的として、原料かまぼこを単純に繊維状に刻んだだけではなく、刻んだ繊維状かまぼこの形態をかに肉の繊維に近似させるために、原料かまぼこのゼリー強度、すなわち歯切れと繊切り後の断面形状、すなわち刻み幅とに特徴をもたせ、一定の条件下においてのみかに肉と同等の食味感を与えることができるとの知見に基づき、本願発明の要旨(特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の効果を奏するものであり、更に、右の構成による製品に対して二〇%ないし三〇%のほぐしたかに肉又はかに仔をまぶすことによつて、香気を与え食味を良くし、かに肉と同等のものを安価に提供することができるものであることが認められる。

他方、第一引用例(これが本願発明の特許出願の日前に日本国内において頒布された刊行物であることは、原告の明らかに争わないところである。)に、本件審決の認定のとおり、「かにあし」は細かく刻んだかまぼこにかに肉をからませたものを、合成樹脂容器(二〇〇瓦程度)に入れ、マイナス一五度Cに凍結したものである旨の記載があることは原告の自認するところ、右記載事項と本願発明とを対比考察すると、両者は、かまぼこを細かく刻んでかに肉に類似した食品を製造する点において一致し、(1)本願発明は、ゼリー強度三〇〇gないし一五〇〇gのかまぼこを使用するのに対し、第一引用例記載のものは、ゼリー強度が明らかでない点、(2)本願発明は、繊切りの程度が〇・二五mmないし一・五mmの刻み幅であるのに対し、第一引用例記載のものは、刻み幅が明らかでない点で相違するものと認められるので、右相違点について検討するに、(1)成立に争いのない甲第五号証(第三引用例)によれば、第三引用例は、本願発明の特許出願の日前に日本国内において頒布された刊行物である昭和三四年六月発行の「東海区水産研究所研究報告」第二四号第六七頁ないし第七二頁であつて(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、それには、かまぼこの足の増強法としての坐りの利用に関する実験結果として、鮮度の落ちたあじにKClを添加した魚肉やまいわしにNaClを添加した魚肉を直ちに加熱しても、弾力のあるかまぼことはならず、弾力のないつみれになるが、あじ、まいわし、しろぐち及びくろかわかじきなどについて、一定の塩(NaCl、KCl及びKNO3等)を添加した魚肉を一定の条件(直ちに加熱するか、又は一定温度で一定時間放置後に加熱)のもとで処理すると、ゼリー強度二六〇gないし九二〇gのかまぼこが得られる旨記載されていることが認められるところ、成立に争いのない甲第八号証(昭和三五年六月一五日地球出版株式会社発行の「食品製造ハンドブツク」第七九頁ないし第八一頁)、第九号証(昭和四九年八月一〇日株式会社恒星社厚生閣発行の「魚肉ねり製品 理論と応用」第一八三頁)、第一〇号証(昭和四四年七月二〇日北海道冷凍魚肉協会発行の「冷凍すりみ・この十年(昭和三四年~昭和四四年)」第一六〇頁及び第一六一頁)、第一一号証(昭和五〇年七月二〇日水産ねり製品技術研究会発行の「水産ねり製品技術研究会誌第一巻一号」第一八頁及び第一九頁)、第一三号証(前掲「魚肉ねり製品 理論と応用」第一六九頁)、第一四号証(昭和五七年三月全国水産加工業協同組合連合会及び全国漁業協同組合連合会発行の「水産加工マニユアルNo.2」第二一三頁及び第二一四頁)、第一五号証(昭和六〇年九月全国蒲鉾水産加工業協同組合連合会発行の「水産練製品製造業技術振興指針」第一三頁及び第一四頁)並びに乙第一号証の一及び二(昭和四〇年六月一五日平凡社発行の「世界大百科事典6」第七九二頁及び第七九三頁)を総合すると、かまぼこの製法は、魚肉をすり、食塩を加えてよく練りつぶし、必要に応じて調味料などを加え、成形して加熱することをその基本工程とするものであり、水さらし工程は、採取された魚肉から油、色素及び汚物等を取り除くため、あるいはスケトウダラのようにゲル形成能の低い魚肉のゲル形成能を改善するために行うものであつて、鮮度の良好な魚肉やゲル形成能の低くない魚肉を用いるときには、その工程を要しないものであり、また、砂糖や味りん等の調味料は、かまぼこの弾力性を低下させるものではあるが、必要に応じ適宜添加されるものであることが認められ、右認定の事実によると、前認定の第三引用例記載のものは、水さらし及び砂糖や味りん等の調味料添加の工程を経たものかどうか必ずしも明らかではないが、仮に、右工程を経たものではないとしても、前認定のとおり、弾力のないつみれと対比して弾力のあるものであるというのであるから、文字どおりかまぼこであるということができる。してみれば、第三引用例には、ゼリー程度が二六〇gないし九二〇gの範囲のかまぼこが開示されているものというべきであつて、かまぼこにおいて本願発明にいう三〇〇gないし一五〇〇gのゼリー強度をもつて格別特異な値とは認め難く、したがつて、本願発明において右のゼリー強度を設定することは、当業者ならば容易になし得ることと認めるのが相当である。また、(2)成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願発明の特許出願の日前に日本国内において頒布された刊行物で(この点は、原告の明らかに争わないところである。)、昭和四九年四月二二日に公開された特開昭四九―四二八五二号公開特許公報であるところ、右公開特許公報記載の発明は、卵白を主材として、これに水及びアルギン酸ソーダを加えて混合したものと粉末寒天に水を加えて加熱溶解したものとを混和して、卵白が十分に凝固するまで加熱した後、平滑なる金属平面版上に薄く流してフイルム状に凝結し、これを塩化カルシウム溶液中に適当時間浸漬した後、金属平面版よりフイルムを剥離し細幅の筋条に切断して十分に水洗いすることにより、かに肉と同様の外観のある繊維状肉質を製造し、この繊維状肉質に適当量の魚肉すり身を混和するとともに、少量のかに汁又はエキスを添加して混練し、必要に応じ微塵切りしたかに肉少量を散布して、これをかに足の形態の型内に充填して常法により蒸煮又は焙焼して製造するかにかまぼこの製造方法であり、また、右のフイルム状凝固物の切断は、具体的には、数枚のフイルム状凝固物を積層してスライスカツターで〇・五mmないし一mm幅の筋条に切断するものであつて、その形態も一原因となつてかに肉と同等の風合い及び食味感を有するものであることが認められ、右認定の事実によると、かに肉と同様の外観、風合い及び食味感を有する繊維状肉質としては、〇・五mmないし一mm幅の筋条に切断したものが適当であるということができるところ、本願発明においても、前認定のとおり、刻み幅は、かに肉の繊維に近似した形態及び口触りのものを得るために採用するものであるから、当業者であれば、第二引用例に開示された右の刻み幅の知見に基づき、それと一部重複する本願発明の刻み幅に想到することは容易であるというべきであり、更に、本願発明の方法によつて製造された食品は、前説示のとおり、ゼリー強度については、第三引用例記載のものと一部重複し、格別特異なものではなく、また、繊維状肉質の刻み幅については、第二引用例記載のものと一部重複し、かに肉の繊維に近似した形態及び口触りにおいて第二引用例記載のものと格別異なるものとも認められない以上、前認定の本願発明の作用効果にしても、これら引用例に開示されている技術事項から容易に予測し得るところであつて、格別顕著なものとも認められず、したがつて、本願発明は、第一引用例ないし第三引用例記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めるのが相当である。原告は、第三引用例記載のものは、つみれであつて、かまぼことは全く異質のものであるのに、本件審決は、第三引用例には、ゼリー強度二六〇gないし九二〇gの範囲のかまぼこが記載されているとの誤つた認定をした旨主張するが、第三引用例記載のゼリー強度二六〇gないし九二〇gの範囲のものがつみれではなく、文字どおりのかまぼこであることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、第一引用例記載のものは、細かく刻んだかまぼこにかに肉をからますことを本質とするものであつて、本願発明のように、単にかまぼこを繊切りにしたものではないのに、本件審決は、両者は、魚肉練製品のかまぼこを細かく繊切りにすることによりかに肉に類似させた食品を製造する点において軌を一にするとの誤つた認定をした旨主張するが、本願発明の内容に関する前認定の事実によると、本願発明は、かまぼこにかに肉をからますことを構成要件とするものではないが、かまぼこにかに肉をからますことを排除するものではなく、かまぼこにかに肉をまぶしたものの提供をも目的とするものであり、しかも、第一引用例記載のものは、かに肉をからますだけでかに肉類似の食品とするものではなく、かに肉類似の食品とするために、主材料ともいうべきかまぼこを細かく繊切りにするものであるから、両者は、かまぼこを細かく繊切りにすることによりかに肉類似の食品を製造する点において共通するものということができ、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。更に、原告は、第三引用例記載のものは、かまぼことは異質のつみれであるから、第三引用例記載のもののゼリー強度をもつて本願発明のゼリー強度を設定することは容易ではないのに、本件審決は、容易であるとの誤つた判断をした旨主張するが、第三引用例記載のものがつみれではなく、かまぼこであることは、前認定のとおりであるから、原告の右主張は、その前提を欠き失当である。更にまた、原告は、第二引用例記載のものは、魚肉とは全く異質の材料を用いたものであつて、かまぼことは本質的に異なるものであり、また、かに肉と同様の口触りを得るためには、かに肉等を添加しなければならないのであるから、第二引用例記載の刻み幅を本願発明のかまぼこの刻み幅に設定することは容易になし得ることではないのに、本件審決は、容易になし得ることであるとの誤つた判断をした旨主張するが、第二引用例記載のものも、その刻み幅の設定自体、かに肉と同様の風合い及び食味感をも得るために採用するものであつて、当業者であれば、第二引用例に開示された刻み幅の知見に基づき、本願発明の刻み幅に想到することが容易であることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用するに由ないものである。なお、更に、原告は、本願発明の作用効果は格別顕著なものであるのに、本件審決は、格別優れたものではないと誤つた判断をした旨主張するが、本願発明の作用効果は、第二引用例及び第三引用例に開示されている技術事項から容易に予測し得るところであつて、格別顕著なものとも認められないことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用するに値しないものといわざるを得ない。なお、成立に争いのない甲第七号証(昭和五九年七月一九日山本巌報告の実験報告書1)によれば、右実験報告書には、本願発明の方法によつて製造された食品は、第二引用例記載の方法によつて製造された食品に比べ、風味、舌ざわり及び外観等において極めて高い評価が得られた旨記載されていることが認められるが、本件審決は、刻み幅の構成に関する開示があるものとして第二引用例を引用するにすぎないものであつて、第二引用例記載の方法は、そのほかの構成において本願発明と構成を異にするものであるから、右の記載内容をもつて直ちに本願発明の作用効果の顕著性を証するものということはできない。

(結語)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

ゼリー強度三〇〇g~一五〇〇gの魚肉練製品のかまぼこを形成し、これを〇・二五~一・五mmの刻み幅をもつて繊切りすることを特徴とするかまぼこ原料をもつてかに肉をほごしたのと同等の口触りの食品を製造する方法。

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